加速度の積分

加速度を2回積分すると変位を得ることができます.しかし,加速度センサで計測した加速度を2回積分して変位を得ることは困難です.加速度センサの出力に,わずかでも直流成分や極めて低い周波数のノイズが混じっていると,それらが積分されて計算で得られる変位に大きな影響を及ぼします.生体医工学の分野ではヒトの活動量を計測するために加速度センサを体に装着して2回積分して移動量を求めるための補正方法などが研究されています.加速度を積分して変位を求める研究は,地震の分野で様々な計算方法(フィルタ)が提案されています.

研究室では筋音の計測に,加速度センサ,レーザ変位計およびコンデンサマイクロフォンを使用しています.コンデンサマイクロフォンでは皮膚の変位を計測できることが知られています.レーザ変位計には計測部をヒトに装着しないので体動の影響を受けやすい,コンデンサマイクロフォンには空気室が必要で小さくできない短所があります.加速度センサは小型で皮膚に貼付けることができます.加速度センサで変位を求められれば応用範囲が広がります.

下図のAは,加速度センサで計測した筋音です.0.6 s毎に電気刺激を加えて収縮を誘発し,そのときの筋音を計測しました.このデータに零を適切に付加してフーリエ変換し,-\omega^2で割って逆フーリエ変換して時間領域に戻すと,Bを得ます.直流は取り除いてありますが,とても低い周波数の成分が残っています.これを適切なフィルタで除くと,Cになります.筋音では,変位は刺激後に刺激前の値に戻ります.地震の分野において加速度から変位を求める問題よりはずっと易しい問題です.

振動計測において,一般的に低周波数成分には変位センサが,高周波数成分には加速度センサが適していることが知られています.また,数値積分や数値微分で物理量を変換する場合には,様々なことに注意が必要です.当該物理量を直接計測できるセンサを利用できるのであれば,それを利用する方が数値計算よりよい結果になります.

先日,Medical & Biological Engineering & Computing にacceptされた論文でも,数値微分や数値積分で加速度や変位も求めています.それらは,加速度や変位を直接計測したものと完全に同じにはなりませんでした.