10 pt

和文と欧文を混植する場合,独立にデザインされた2種類の書体を使うことが多くなります.日本語TeXも例外ではありません.デフォルトの欧文書体は,KnuthがデザインしたComputer Modernです.Computer Modernは,1970年代以前の欧文学術雑誌で使用されている書体によく似ています.1980年代以降は,Timesのような印象の書体が多くなっています.

独立にデザインされた書体をptのみ合わせて和文と混植すると,欧文が小さく見える,あるいは欧文が浮き上がってみえる・沈んでみえる,ことがほとんどであると思います.仮想ボディにおけるベースラインの位置や,欧文のascending lineおよび descending lineの大きさに依存して見え方が違うはずです.

DTPでは,和文主体であれば,欧文を修正します.ベースラインを少し下げたり,文字の大きさを少し大きくしたりして,和欧のバランスをとります.

日本語TeXでは,欧文を修正せずに和文を小さくしています. 標準的に配付されているmin10では,0.962216倍されています.桁数が多いのですが,様々な書体を実測して,何らかの計算で誘導された値であろうと推測されます.

TeXの1ポイントは,1/72.27インチです.DTPでは1ポイントは1/72インチです.1インチは25.4 mmです.同じポイントの文字でもTeXの文字が小さくなります.

もともとTeXのポイントが小さいことに加えて,和文は0.962216倍されますから,10 ptで組んだものでも,和文部分は欧文以上に小さくなります(10 pt × 0.962216 × 72/72.27 ≒ 9.59 pt).TeXで作成すると,ワープロで作成したものより和文が小さくみえるのは,本当に小さい文字で印刷しているからです.学会予稿などで,文字のサイズを指定されているときには,このことを念頭においておくとよいでしょう.

奥村さんのサイトから配付されているjis.tfmは,0.962216倍の幅を持っています. jis.tfmに記述されている文字幅が入るjis.vfもそうなります.jsarticleでは,スタイルファイルのなかで0.961倍の記述があります.これは,文字のサイズは0.962216 × 0.961倍されることになります.TeXの10 ptで作成したものはDTPの約9.21 ptになります(約13 Q,1 Q = 0.25 mm).以前,12 ptで本文を作成する必要があったとき,jsarticleに新しく13 ptの定義を追加してDTPの12 pt相当の和文の文字の大きさにしました.

jarticleとjsarticleでTeXの10 ptで作成したDVIについて調べたものを示し
ます. 「拝啓」の2文字分です.

jarticle
135: fntnum14 current font is min10
136: set2 18258("4752) type=0 h:=4063232+630598=4693830, hh:=297
139: set2 14140("373C) type=0 h:=4693830+630598=5324428, hh:=337
jsarticle
132: fntnum31 current font is jis
133: set2 18258("4752) type=0 h:=-4222+606003=601781, hh:=38
136: set2 14140("373C) type=0 h:=601781+606003=1207784, hh:=76

文字幅はTeXの10 ptなら,655360になります.
0.962216倍で630598になります.
さらに0.961倍で606003になります.

実際に,DTPの10 pt,TeXの10pt,jarticleの10 pt,jsarticleの10 ptに相当するように入力したものを次の図に示します. 図の作成には,Illustratorを使いました.一番上の行は,当該書体(OTF-リュウミン Pro L-KL)の欧文部分に定義されている従属欧文フォントです.2行目以降の欧文は,cmr10です(Type 1).9.59 ptになるのですが,丸め誤差で9.58 ptになっています.

waouryumin

※図をクリックすると図のPDFが開きます.