肘関節における筋活動度・トルク・関節角度・速度の関係

筋が発生する張力は,筋の長さと中枢からの指令(筋の活動度)の両方に依存する.筋の活動度が一定に維持されているときに,関節角度が変化すると,張力はどのように変化するのだろうか.バネのように単に長くなれば張力が増大するのだろうか.もし,そうである場合には,線形なバネと考えてもよいのだろうか.

運動制御に筋活動度・関節角度・張力の関係をどのように利用しているのだろうか.


受賞

  • バイオメカニズム学会奨励賞 (1997)
  • 平成9年度科学新聞賞・研究奨励賞 (1998)

一対の拮抗する筋がそれぞれバネに類似する性質をもち,両方の筋によるトルクが釣り合うところで関節角度が定まると考えるのが平衡点仮説である.トルクは,筋の活動度と関節の角度の両方に依存する.ヒトの肘関節の伸筋では,静止している状態では,筋の活動度を一定に維持すると,関節角度とトルクの関係はバネに類似する性質を示す.そこで,動作時の関節角度・速度・トルクの関係を調べた.筋の活動度を一定に維持した状態で関節角度を変えることは実験的には困難であるので,様々な関節角度で様々なトルクを発生している状態で筋の活動度(IEMG)を計測し,それらの関係を非線型な写 像をモデル化する能力に優れている3層の階層型ニューラルネットワークを用いてモデル化した.モデルに一定の筋の活動度と様々な関節角度・伸展速度を入力してトルクを推定した.動作時も筋はバネに類似する性質を示すことが分かった.また,筋の伸張速度(関節の伸展速度)が増大するとトルクが減少する性質を示した.この関係は,Hillの式で説明することができるものであった.

  • 日本エム・イー学会論文賞・阪本賞 (1998)

筋線維では,一定の刺激を与える条件下で,サルコメア長が長くなると,収縮力が増大する上行脚から,やがて収縮力がほぼ一定になる平坦部を経て,収縮力が減少する下降脚へと遷移することが分かっている.生体内の筋は,筋活動度が一定に維持されているときに,上行脚・平坦部・下降脚のいずれで動作するのであろうか.例えば,平衡点仮説による関節位 置の制御では,一対の拮抗する筋がそれぞれバネに類似する性質をもち,両方の筋によるトルクが釣り合うところで関節角度が定まると考える.筋長が長くなると収縮力が増大する特性である.これは,上行脚に対応する.サルの上腕三頭筋については,上行脚に対応する特性が報告されている.しかし,他の筋も,筋活動が同じであるならば平坦部に比べて筋収縮力が小さい上行脚を利用しているのであろうか.関節の構造等が関節角度とトルクの関係にどのように寄与するのであろうか.そこで,ヒトの肘関節の筋について,筋活動度が一定に維持されているとき関節角度とトルクの関係を調べた.
ヒトを対象にする場合,筋活動を一定に維持しながら関節角度を変化させることは,実験的にはほとんど不可能である.そこで,関節角度とトルクを様々に変化させて筋活動度(IEMG)を計測し,筋活動度と関節角度を入力するとトルクを出力するモデルを構築した.解析的にモデルを構築することは困難であるので,非線型な写 像をモデル化する能力に優れている3層の階層型ニューラルネットワークを用いた.モデルに一定の筋の活動度と様々な関節角度を入力してトルクを推定した.伸筋では,トルクは筋長の増大とともに増加した.しかし,屈筋では,筋長が増大してもトルクがほとんど変化しない,あるいはむしろ減少する特性が得られた.この特性は,屈筋のモーメントアーム長の関節角度依存性に類似している.つまり,筋骨格系の構造が,関節角度−トルク関係に強い影響を与えることを示している.


論文

  • 赤澤堅造,奥野竜平,内山孝憲:「筋長-張力関係の下降脚における静的位置制御機構の実験的・理論的構築 -力・位置制御における運動単位活動の計測と筋モデルを用いた解析-」,バイオメカニズム 28,43-52 (2023).
  • T. Uciyama and K. Akazawa: “Muscle Activity-Torque-Velocity Relations in Human Elbow Extensor Muscles”, Frontiers of Medical and Biological Engineering, 9, 305-313 (1999).
  • 内山孝憲,赤澤堅造:「過渡状態における長母指屈筋の粘弾性調節機構」,医用電子と生体工学, 37,86-89, (1999).
  • 内山孝憲,赤澤堅造:「ヒト肘関節伸筋の筋活動度−角度−等尺性トル ク関係と−負荷トルク−速度関係」,バイオメカニズム 14, 27-37 (1998).
  • T. Uchiyama, T. Bessho and K Akazawa: “Static Torqe-Angle Relation of Human Elbow Joint Estimated with Artificial Neural Network Technique”, J. Biomechanics, 31, 545-554 (1998)
  • 松本悟,内山孝憲,赤澤堅造:「前腕の回内,回外を考慮したヒト上肢 運動の3次元動態計測法」,バイオメカニズム学会誌, 30, 138-143 (1996)
  • 内山孝憲,別所知之,吉田正樹,赤澤堅造:「ヒト上肢の関節角度とト ルクの関係」,バイオメカニズム 13, 77-88 (1996)
  • 内山孝憲,山田渉,赤澤堅造:「 静的な位置制御における関節角度・ 筋活動度・トルクの関係」,医用電子と生体工学, 34, 119-126 (1996)

国際会議発表

  • T. Uchiyama and K. Akazawa: ‘Neural Network Model for Muscle Force Control based on the Size Principle and inhibition by Renshaw Cells’, Proc. IEEE Engineering in Medicine and Biology 20th Ann. Conf. (1998) .
  • T. Uchiyama and K. Akazawa: ‘Torque-Angle and Torque-Velocity Relations of Human Elbow Extensor Muscles’, Proc. World Cogress on Medical Physics and Biomedical Engineering (1997).
  • T. Uchiyama, T. Bessho, M. Yoshida and K. Akazawa: ‘Elbow Joint Torque-Angle-IEMG Relationn at Constant Muscle Activities in Volunraty Contraction’, Proc. IEEE Engineering in Medicine and Biology 18th Ann. Conf. (1996).

国内口頭発表

  • 内山孝憲,赤澤堅造:「リカレントニューラルネットワークによるヒト骨格筋の張力応答推定」,第11回日本ME学会秋季大会,1997年11月
  • 内山孝憲,赤澤堅造:「ヒト肘関節伸筋の関節角度−トルク関係と速度−トルク関係」,第11回日本ME学会秋季大会,1997年11月
  • 内山孝憲,赤澤堅造:「ヒト肘関節伸筋の静的・動的特性」,第15回バイオメカニズムシンポジウム,1997年8月
  • 赤澤堅造,松本悟,内山孝憲,吉田正樹:「仮想的な物体把握を可能とした一自由度筋電義手シミュレータ」,第36回日本エム・イー学会大会,1997年4月
  • 楠本秀忠,前野純彦,内山孝憲,吉田正樹,赤澤堅造:「随意収縮における機械的刺激に対する筋粘弾性の線形性」,第36回日本エム・イー学会大会,1997年4月
  • 内山孝憲,藤井圭,赤澤堅造:「平衡点仮説検証のための肘関節伸筋群の静的・動的特性」,第36回日本エム・イー学会大会,1997年4月
  • 内山孝憲,井内秀樹,前野純彦,楠本秀忠,吉田正樹,赤澤堅造:「過渡状態における筋粘弾性の調節−張力・筋活動度との時間的関係−」,第11回生体生理シンポジウム,1996年11月
  • 藤井圭,内山孝憲,吉田正樹,赤澤堅造:「等速度運動時におけるヒト肘関節筋の活動様式の解析」,平成8年度電気関係学会関西支部連合大会,1996年11月
  • 松本悟,奥野竜平,内山孝憲,吉田正樹,赤澤堅造:「不完全麻痺者のための動力装具シミュレータの開発〜指の開閉角度と把握力の制御〜」,平成8年度電気関係学会関西支部連合大会,1996年11月
  • 前野純彦,内山孝憲,吉田正樹,赤澤堅造,楠本秀忠:「機械的刺激の強弱と人体筋粘弾性の関係」,第17回バイオメカニズム学会学術講演会,1996年10月
  • 内山孝憲,藤井圭,別所知之,赤澤堅造:「上肢位置制御における関節角度とトルクの関係」,第35回日本エム・イー学会大会,1996年5月
  • 内山孝憲,前野純彦,吉田正樹,赤澤堅造,楠本秀忠:「リカレントニューラルネットワークを用いたヒト骨格筋の力学モデル」,電子情報通 信学会MEとバイオサイバネティクス研究会,1996年3月
  • 別所知之,藤井圭,内山孝憲,赤澤堅造:「ヒト上肢における関節角度とトルクの関係」,平成7年度電気関係4学会関西支部連合大会,1995年11月
  • 別所知之,藤井圭,内山孝憲,赤澤堅造:「上肢の関節角度・等尺性トルク関係の計測と解析」,第16回バイオメカニズム学術講演会,1995年11月
  • 吉村拓哉,奥野竜平,内山孝憲,吉田正樹,赤澤堅造:「ヒト肘関節筋の活動様式の解析 〜等尺性収縮と等張力性収縮の比較〜」,第16回バイオメカニズム学術講演会,1995年11月
  • 松本悟,内山孝憲,赤澤堅造:「着座時におけるヒト上肢運動の3次元動態計測法」,第16回バイオメカニズム学術講演会,1995年11月
  • 内山孝憲,別所知之,吉田正樹,赤澤堅造:「ヒト上肢の位置制御における関節角度−等尺性トルク関係」,第10回生体・生理工学シンポジウム,1995年11月
  • 内山孝憲,別所知之,吉田正樹,赤澤堅造:「ヒト上肢の関節角度と等尺性トルクの関係」,第14回バイオメカニズム・シンポジウム,1995年7月
  • 内山孝憲,赤澤堅造:「上肢の関節角度・筋活動度・トルク関係の推定」,第34回日本エム・イー学会大会,1995年5月
  • 山田渉,別所知之,内山孝憲,赤澤堅造:「肘および肩における関節角度と等尺性トルクの関係」,電子情報通 信学会技術研究報告MEとバイオサイバネティックス,1995年3月
  • 内山孝憲,山田渉,赤澤堅造:「定常状態における肘および肩関節の角度・筋活動度・トルク関係の推定」,第15回バイオメカニズム学術講演会 ,1994年
  • 小柳康史,内山孝憲,吉田正樹,赤澤堅造:「膝関節筋の筋電図−角度−等尺性トルク関係を表現するモデル」,第7回自動制御連合講演会,1994年
  • 内山孝憲,山田渉,赤澤堅造:「ニューラルネットワークによる肘および肩関節の角度−トルク関係の推定」,第33回計測自動制御学会学術講演会,1994年7月